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横濱増田窯の魅力

妖しい器 作家・山崎洋子

元町に、気に入っているフレンチ懐石のレストランがある。内装にも料理にも和洋中を絶妙なバランスで取り入れ、独自のエキゾチシズムで人気のある店なのだが、そこで使われている器が以前から気になっていた。アラビアンナイトや横浜浮世絵が描かれており、黒、赤、緑、黄色など、かなり思いきった色が使われている。白地にあっさりとした藍をあしらったものもあるのだが、それも、よく見るたぐいの皿小鉢とは、何かしら漂ってくる気配が違う。器としてちゃんと料理を引き立ててはいるのだが、器それ自体も、独自の主張を持って自分の世界を語りかけているのである。

ある高名な画家とその店へご一緒させていただいたことがあるのだが、彼は料理が運ばれてくるなり器に眼をとめ、「うーん、妖しいですねぇ、非常に妖しい」と唸り、感心し、レストランのオーナーに、これはどこで製作されているものなのかと熱心に質問しておられた。横濱増田窯という名を知ったのは、その折である。

ハロッズ、ティファニー、グッチといった世界のトップ・ブランドから、熱く求められたその華麗な色や柄を、私はどう表現したらいいのかわからない。ただひとつ言えることは洋の東西の積極的融合という開港以来の横浜スピリットが、どの品にも感じられることである。これは窯主である増田博氏の、横浜に対する深い思い入れであるのだろう。大好きな横浜に横濱増田窯があることを、私は心から誇りに思っている。

横濱増田窯の魅力の一つは、なんといっても、その色にある。"ウィンター ゲーム バード"シリーズに代表される、鮮やかな赤とグリーン、蒔絵シリーズで見られる漆と見粉うような黒、深く澄んだヨコハマブルーなど、どれも横濱増田窯ならではの色だ。

絵の具などの場合、たとえばピンクを作るためには白と赤を混ぜればいいが、焼き物の場合、色を混ぜると焼成の段階で変色してしまうため、混ぜ合わせて色をつくることができない。赤一色にしても、濃淡が違えば、顔料などを混合して、ほしい色をつくらなければならないのだ。現在横濱増田窯には千五百から千六百種あるという。

新しいデザインができたら、それをもとにパターンをおこし、プリント製版で色をのせる。薄い緑は薄い緑だけの版、濃い緑は濃い緑の版をつくり、色を順々にのせていくわけだ。その工程は多色刷りの版画を、より精緻にしたものと思っていいだろう。多いものでは、一つの食器に三十七から三十八色が使われ、全部色をのせるだけでも一ヵ月近くかかるという。色の出し方、それぞれの印刷技術など、いずれも増田さんが試行錯誤して考えたものだ。



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1 手描きの評価も高い。MOA美術館所蔵の尾形乾山作 「色絵十二か月歌絵皿」の写しも増田窯
2 空気を抜き、ぴったりとデカルコマニアを食器に張る 作業も集中力と熟練の技が必要とされる。
3 デザイン画をもとに1色ずつ色を印刷する。 濃淡を出すためには1工程ではすまない。
4 焼成温度、焼成時間は色によって異なる。 思いどおりの色に仕上げるために重要な工程だ。


最近の横濱増田窯によく見られるデザインは、“ジャポネスク”や“蒔絵”シリーズのような日本の古典柄をモチーフにしたものだ。そもそもはニューヨークのメトロポリタン美術館でアメリカ人が蒔絵を食い入るように見ていたことからヒント得て、食器の柄に取り入れたそうだが、「これからは東洋の思想、東洋的な自然観が求められるような気がします。これまで人間は自然を征服して、そこに都市を築いてきたでしょう。これはどちらかといえば西洋的な考え。だから、家も石づくりでがっしり建てる。一方、日本の家は木と紙でできているといわれますが、障子を閉めても日の光を感じることはできるし、風の動きやものの移ろいを感じながら暮らせる空間。最近日本にもそういう家が少なくなってきたけれど、自然を征服して発展を続けていくことに、少し疲れを感じてきている時代だと思うんです」

洋食器の柄は、縁全体につけるのが一般的だが、横濱増田窯の古典柄は白く抜いてあるのが特徴だ。「料理人が一生懸命つくった料理を盛ると、そこに気が入る。食器に抜きをつくることで、その"気"を抜き、リラックスして食事ができるようになる。これも東洋的思想の影響ですね。自然に感謝し、素材に感謝し、生かされていると感じる。先人たちが料理の中に求めていたことを西洋料理の人にも知らせることができたら、食の文化はもっと広がると思う」

宮川香山がウィーン万国博で金賞を受賞してから百二十年余り。新しいジャポニズムが世界の食卓を飾る日も近いように思える。


講談社 四季食彩'98年春号より
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